コラム

RPAの導入効果

RPAは、Robotic Process Automationの略で、ロボット技術によってパソコンで行う業務プロセスを自動化することをいいます。RPAは、これまで人間が行ってきた作業を自動化することで、生産効率の向上に貢献します。そのため、2016年頃から国内外で導入する企業が増えています。   

 

   国内でRPAが増えている背景には、2018年6月29日に国会で可決・成立した働き方改革関連法案があります。働き方改革の狙いは、少子高齢化で生産年齢人口が減る分、1人当たりの業務成果を高めて日本の生産力を維持しようというものです。特に中小企業ほど人材不足は深刻です。企業の規模が小さいほど人材採用は困難であるという実態があり、今後の人口減少により、この傾向はますます強まるでしょう。小さい組織ほど、今いる社員の生産性を上げることを真剣に考えなければならなくなります。この生産性を高めるのに期待されているのがRPAなのです。   

 

RPAは、人間に代わって、社内システムやソフトウェアなどの作業を事前に定義したルールに基づき処理をすることができます。人が従来行ってきたルーチンワークをロボットに任せることで、人はより高度な判断が求められる業務に力を注ぐことが可能になります。 


デジタルレイバーを新戦力に!

RPAは、社内システムやWEBサイトなどから必要な情報の収集、表やグラフへの反映、社内システムの入力など、これまで人がやってきた情報処理の一連の作業を代行してくれます。言い換えると、ロボットが、人が行ってきた操作にならって自動的に作業するというものです。RPAの導入は、その業務を行ってきた担当者を作業から解放してくれるだけではなく、間違いのない作業と運用コストの大幅な削減を行うことが可能です。この導入に伴う運用コスト削減効果は、50%以上ともいわれています。 

 

 RPAのロボットは、事務作業をデジタル上で実施するため、「デジタルレイバー(仮想知的労働者)」といわれます。ロボットは、人が実際に行っている「エクセルのどのセルの数字を確認し、そのあと、どこのセルにコピーするのか」や「その後どの社内システムを起動してどの画面を開き、どこに入力するのか」といった事前に設定したルールに基づいて忠実に作業を進めます。   

 

 RPAの導入によって、人の役割は、単一業務を行う労働者から複数の仕事を束ねる工場長の役割へと変化していきます。例えるなら、RPA導入は、なにもわからない新入社員にマニュアルを渡して仕事を任せるようなものです。そのため、RPAの担当者は、業務に関する知識を十分に持ち、業務内容をしっかり把握し、合理的な手順を明確に指示する必要があります。 


RPAはどのような業務プロセスに効果的か?

RPAが得意とする業務には、例えば、エクセルなどの一覧で表示されるデータを他のアプリケーションに入力する業務や多数の相手に個別のデータを作成し送るといった業務があります。大量の単純入力や一定条件に基づいたシステム連携や特定条件でのデータ抽出など判断基準が明確かつ手間がかかる処理が、RPAの得意とする分野です。 

 

 一方、こういった作業を人が行う場合には、入力の都度、数値等の確認を行う必要があり、大変負荷のかかる業務だといえます。  

 

 ホワイトカラーが日々繰り返して行うデスクワークは、情報の収集、検索、データ入力、数値確認など、定型的な作業の組み合わせです。これらの業務は、RPAによる自動化が次第に進んでいくと考えられます。最近では、茨城県庁や横浜市役所など、多くの自治体で大きな成果があったことが報道されています。 


RPAの経理業務への導入

経理業務へのRPAの導入は、一般的に言われているほど、簡単ではありません。 

 

RPAの開発時には、対象とする業務フローを正確に把握し、作業ステップを書き出す必要があります。自動化する業務の要件を確認し、どのような条件の時に、どのような手順で、何を実行するのかを可視化して、その通りにロボットが動くように設定していきます。 

 経理業務において会計システムに入力されるデータは、財務諸表や税務申告の基礎となるものであり、その作成・集計には正確性が求められます。例えば、社会福祉法人会計基準では、事業区分・拠点区分・サービス区分などの会計区分間における金額配賦の論点、内部取引相殺消去の論点、これに伴う消費税コードをどのように付すかといった複雑で難しい論点が数多くあります。これらの論点をすべて把握できていない人が、正しい作業ステップを書き出し、それをRPA化するのは不可能です。仮に誤った作業ステップに基づいてRPAを稼働させた場合、誤ったデータを大量に作成してしまうこととなります。そのため、経理業務については、社会福祉法人会計に詳しい税理士や会計士といった専門家が参加し、適切な要件定義を行うことやRPA稼働後の業務品質のチェックが不可欠です。 

 

現在の多くのRPA導入事業者は、現状の作業を担当者にヒアリングし、そのままRPA化するといった手法をとっています。そのため、RPAの適用は、単純集計業務や会計データをエクセルに落とすといった程度に留まっているのが現状です。 

 

経理業務へのRPA導入がうまくいかない理由

・税理士や会計士といった、経理業務を正しく理解している人が参加していないため、適切な要件定義ができない。

 

・一部の担当者のみが業務を行っており、業務が属人的で非効率な運用になっているため、業務プロセスの見直しが必要である。

 

【結論】

現状の仕事をヒアリングし、そのままRPA化するといった手法では、経理業務への適用は難しい(単純集計業務は可能)


RPA導入により変わる中小法人の経理業務の課題

 

 RPAを導入すると、担当者の仕事の役割が大きく変化することになります。 

 

 ロボットは、大量、反復的、単純な業務を行うことが、とても得意です。ロボットの仕事ぶりはスピーディーで、かつ、正確で疲れることを知りません。そのため、担当者は、ルーチン業務から離れ、難易度が高く、より高付加価値な業務領域にシフトしていくことになります。 

 

  本来、経理業務を正確に行うためには、担当者には高度な知識が求められます。しかし、担当者は、必要な知識が不足したまま、業務を行っていることも少なくありません。現在の経理業務は、多くの業務量があるために、担当者の業務処理が多少間違っていたとしても、たくさんの量をこなすことに一定の価値がある側面があります。 

 

  ロボットが経理のルーチン業務を行うようになると、このように多少間違っていても数多くの業務処理を行う、といった仕事の仕方は、まったく価値のないものとなります。現在の人が担当する仕事の多くは、ロボットが担当するようになり、担当者は、ロボットが正しく適切に業務を行っているか、確認する役割を担うことになるでしょう。仕事の役割の変化に応じて担当者の業務レベルを上げていく必要があります。 

 

 RPAを導入するだけで、十分な効果を発揮することはできません。導入後の担当者教育をどのように行うかという点は、RPA導入において重要なポイントです。 


RPA導入により、生じるシステム上の問題は?

 RPAにより業務の自動化を開始すれば、その効果がずっと継続する訳ではありません。RPA導入後も法律の改正や業務フローの変更の都度、その対応が必要になります。その変化への対応ができない場合には、期待通りの成果が得られないだけでなく、新たな問題が発生する可能性すらあります。  

 

 状況の変化に十分に対応できず、なんの統制もなく運用を行うことになった場合、管理できていないロボット(野良ロボット)や意図せず害を及ぼすロボット(悪影響のあるロボット)が出る危険があります。   

 

  野良ロボットとは、誰も管理できないロボットのことをいいます。野良ロボットが発生する最大の原因は、ロボットを作成した管理者が退職するなど、そのロボットについて理解できる担当者がいなくなってしまうことです。野良ロボットが生まれることによる弊害は、誤った情報を入力し続けたりすることにより、サーバーに大きな負荷をかけることなどが考えられます。また、悪影響があるロボットの例として、担当者の知らないところで、ロボットが顧客情報を収集し、外部にメール送信したりすることが挙げられます。  

 このような事態を避けるためには、業務の可視化を行い属人化しないようにしつつ、適切にロボットの管理を行うことが重要になります。